run

8/13

16人が本棚に入れています
本棚に追加
/13ページ
 空知くんは、窓の外を見ている。外では、部活真っ最中である。きっと陸上部も、いる。  気にならないはずが、ないのだった。  お昼を回ると、少しずつ皆帰っていき、教室は徐々に寒々しくなっていった。部活だったり、塾だったり、皆忙しい。  空知くんの方を見ると、気がつけば男子は空知くんただ一人になっていた。もう窓の外は見ていない。一心にノートに何か書きつけている。  三時が過ぎて、私たちも帰ることにした。私は六時から夏期講習に行かなくてはならない。 「空知くん。まだいるの」  声をかけてみた。 「雨が降る」  空知くんは空も見ずに、つぶやいた。  すると、さああ、と、背後から忍び寄るように、本当に大粒の雨が降ってきた。 「うわっ」 「雨だ」 「やばーい、どうしよ」  たちまち視界が雨の灰色一色になった。グラウンドにいた生徒たちも、なにか叫びながら校舎に吸い込まれていく。 「わぁ〜、すごいね……」  教室の皆は、ただただ勢いよく降る雨を、つっ立って見ているしかなかった。荒ぶる自然に、人はいつも無力である。空知くんもノートから顔を上げて、窓の外を見ていた。真っ暗になった窓に、空知くんの顔が映る。
/13ページ

最初のコメントを投稿しよう!

16人が本棚に入れています
本棚に追加