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「大丈夫かな、皆」
空知くんは言った。
「え?」
「もうすぐ大会なのに。こう、雨続きじゃ、練習できないな。最後の大会なのに」
「あー……、そうだね。大変だね」
「グラウンドもべちゃべちゃで、もう今日は無理だ」
「うん……」
「最悪だおれ」
「ん?」
「思ってしまった。おれ、雨、降ったらいいのにって」
空知くんは無表情で、そう言った。全然私の方を見ない。だからその言葉は宙を浮いて天井にくっつき、私がそれを捉えることはできそうになかった。
「……空知くん、私たち帰るね。戸締り、よろしくね」
慎重に必要な連絡だけをすると、空知くんはやっと私に気づいたみたいに「あ、うん」とうなずいた。空知くんにとって、私はいつも影が薄いらしい。
雨が小止みになるのを見計らって、教室を出た。靴箱のところは、雨に追い立てられた運動部でごった返していた。なんか臭い。汗臭い。でもまさにこれは、青春の匂いだと思った。帰宅部の私には、きっと一生縁のない匂いだ。
「……あ、そうだ。忘れた〜。先帰ってて。バイバイ」
私はきびすを返して、教室に戻った。なんとなくさっきの空知くんを、独りにしてはいけない気がした。
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