出会いはコーラ味の中で

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 私は馬鹿らしくなってベッドに横たわった。悪阻でこれ以上立っているのもしんどかったし、胃液が込み上げてきて吐きそうだった。頭痛もする。頭痛は決まって、前頭部の右側で鈍い痛みが半永久的に続く。波はあるが、寝ても覚めても、横たわっていも歩いていても痛みが収まることはない。  吐き気も同様だった。何をしていても収まることはなく、お腹と胸をつねってごまかす日々がもう数ヶ月続いている。赤ちゃんがいると思えばこそ乗り越えられた日々だった。これからもそれをバネに乗り越えてみせる。  最初はオレンジしか食べられなかったのに、いつからかグレープフルーツしか食べられない体になった。そしてついにはグレープフルーツも食べられなくなり、私はコーラだけを食するようになった。カフェインと糖分の取りすぎが心配なので飲む量には気をつけているが、お茶も水もフルーツジュースも何を飲んでも戻してしまうので、唯一、体に取り入れることが可能なコーラに頼り切りの毎日だった。  妊娠する前はコーラなんてほとんど飲んだこともなかったのに不思議なものだ。吐き気で水もお茶も一滴も飲めない私にとっての命綱。あのシュワシュワした炭酸が私の体を浄化する。  ああ、赤ちゃんがまたお腹を蹴っている。この一瞬でさらに大きくなったようだ。一日でどんどんどんどん着実に肥大化する。  ムニーッと私のお腹の内側から外側に向けてすごい勢いで蹴ってきた。その勢いで飛び出した足を、私はお腹の外側から握りしめる。もうすぐ会えるのよ。あなたのその足に。  そう思うと赤ちゃんは返事をするようにしゃっくりを始め、また私のお腹を両足でムニッ、ムニッ、と蹴り上げた。 「元気なのね。もうすぐだからね」  私は大きな大きなお腹をよしよしとさすると、横たわったまま目をつむる。もう仰向けではとてもじゃないが眠れない。岩を乗せているようにお腹が重いのだ。 「ママ、少し疲れちゃったみたい。少し眠りましょうね」  横向きで寝るとだいぶ楽だったが、大きなお腹はベッドの上に無造作に投げ出された。赤ちゃんは怒っているかのように、ムニムニ、ムニムニとお腹をまた蹴り上げる。元気がよすぎて今夜も眠れるか心配だったが、同時にうれしくもあった。 「おやすみ、私の赤ちゃん」  私が浅い眠りに入りながらお腹をさすると、赤ちゃんの泣き声が確かに聞こえた。 (了)
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