夕立と東の魔女【短編】

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「さて、もうあまり時間がないから精算を済ませてしまおうか」 「精算」 「そうそう、私は占い師で、お兄さんはお客。でも困ったね。時間としては30分くらいだから3000円と思っていたのだけど、ご依頼のお兄さんの仕事運はろくに占ってないな。うーん」  魔女は細い眉毛をあげてウンウン唸っている。  仕事運。仕事運というかさっきの占いにはお金を払う気持ちにはならないのだけど雨が上がったのは当たった。占いは当たったのだ。  それに、12分後、つまり9分後なんてすぐに来てしまう。そしてきちんと晴れるなら俺はすぐにアーケードを出ないといけない。そうすると、確かに精算時間はない。  これが最後のチャンスならば。 「あの」 「ううん、どうしたものかねぇ。ここは一つ、お兄さんのお気持ちでってことでどうだろう」 「俺の気持ち」  彼女と別れてぐじぐじした気持ちで俺はこの椅子に座った。誰かと話がしたかった。この気持ちを、これからを、どうしていいのかわからず心にどろどろとした渦を巻いていた。  でもさっきからこの魔女と話していて、アロマの効果もあるのだろうけど、青りんごの香りと相まってなんとなく気持ちが少し落ち着き軽くなっていた。雨が上がって爽やかな夏の風がその表面を吹いたように。  きちんと雨がやんだなら、そしてきちんと空が晴れたなら、急いでいけば、間に合うのかもしれない、彼女に。なんとなく、そう思えた。  わぁ、と小さな歓声があがった。  思わず振り返ると雲は強い風に次々と吹き飛ばされ、見る間に星の瞬きに塗り替えられていく。まるで魔法のようだ。そしてその真中にきれいな天の川がみえて、今日必要な3つの星が白く明るく輝いた。  そう、今日は七夕で、とても特別な日だ。彼らは1年後に会えるかもしれないが、今会わなければ俺は彼女にもう会えない、2度と。  夕立が上がって晴れたからには、会いに行かなくては。 「ほら、もうお代はいいから早くいきな」  あわただしく財布をいじくる。一万円札を机の上に投げつけてアーケードの外に飛び出すと、背中から、お代は確かに、という声がきこえた。 Fin2d9a9e7b-762e-4d8b-b8fd-86e113bfccab
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