夕立と東の魔女【短編】

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「お兄さん、占いは初めてですか」 「そうですね、本格的なのは。遊園地とかのブースで彼女と何回か占ってもらったくらい」 「ああ、似顔絵コーナーとかの近くにあるやつ」 「そうそう」  占い師の女の声はどこか落ち着いていて、ようやく胸をなでおろすと料金表が目に入った。  俺の視線に気づいた占い師は少し首を傾げて問いかける。 「何の占いがご希望でしょう?」 「そうですね……」  料金は基本的に1つの占い毎に30分で3000円。2つになると1時間で5000円という体系のようだ。相場感はわからないけど、そういえば遊園地もそのくらいだったかな。  生活運、仕事運、金銭運、それから……恋愛運。  恋愛か。その文字がやけに目につくが、今は目にいれたくない。  俺は付き合っていた彼女とこのショッピングモールにデートにきていた。付き合うことにはしたものの、俺と彼女の関係は梅雨前線がひしめき合うように可及的速やかに悪化していき、おそらくもう駄目なんだろうなという予感はしていた。それでさっき、お互いに腹を立ててささいなことで喧嘩した。そして彼女は公衆の面前で俺を引っ叩いて走り去った。  俺も彼女も頑固で強引だから、ここまでこじれてしまえば恐らくやりなおすことは不可能だろう。けれども彼女の気が強いところ自体は結構好きで、だけど俺も折れることはできなくて、張り合って、どこで間違ってしまったんだろう。  今も隣で降り続ける夕立のように気持ちは晴れない。  するとふいに夏の風のような言葉が耳に入る。 「今日の天気でも占います?」 「天気? 今日はもう雨でしょう? 予報では朝からずっと曇りだったけれど。今週いっぱいは曇か雨で、晴れ間は来週のお預けらしい」 「きっとこれが梅雨の最後なんでしょうね。明けるときっと、カラッと晴れる。でもまぁ、今日は晴れるかどうかが肝心な特別な日なので」  特別。特別か。  いろいろな思いが去来する。だが今日はもう恋愛のことは考えたくない。
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