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「ふふふ、困ってない人にはあまり言わない方がいいのさ。占いなんざちょっとした歯車の掛け違いで結果が変わっちまうもんだからね」
「そんなものですか」
「そうだよ。そうだな、さっきのは色々隠さず言っちまったとこもあるが、例えば私が『あなたはこれから1時間以内に電車に乗るでしょう』と言ったとする。でも聞いちゃった以上、予定になくてもこのへんで1時間時間をつぶすことができてしまう。聞かなきゃ乗ってたはずなのにね。本当に当たる占いっていうのはそんな量子力学みたいな微妙なもので、本当に必要な時以外は真実を聞かせちゃだめなんだよ。ねじ曲がっちゃうからね」
「量子力学ですか」
「そうそう、観測すると未来が変わるのさ。だからどうでもいいことはなんだかよくわからない言葉で煙に巻く。ほら、反対の手も」
腑に落ちない気分で左手を差し出す。
けれどもこころなしか、右手は先程よりは随分柔らかくぽかぽか温まっていて、少しだけ緊張が解れたように思えた。
「じゃあ占いってのは当たらないものなんですか?」
「いいや、当たるよ。でも人生なんてたいていの場合は当てても意味がないのさ」
「ふふ」
占い師なのにその物言いはなんだか面白かった。
「信じてないね?」
「まぁ、当たるのでしょう?」
占い師の女は怒るでもなく優しげに口角を少し上げてに俺の目を見た。
「じゃぁ、当たる占いをしてやる」
「当たる占い?」
「そのかわり、当たったら、私の言うことを一つ聞くこと。これは仕事運の話じゃないからお代はいらない」
「当たったら?」
「そう、当たったらでいい。世の中にはね、明らかで告げてもいいものっていうのはままあるものさ」
占い師は悪戯っぽく笑って、さあどうする? と問いかけた。
そしてぱちりと青りんごの香りが弾けた気がした。
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