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「いいですよ。何を当てるんです?」
「天気さ」
「天気、ですか?」
「最初に言っただろ? じゃあ当たったら、私の言う通りにするかい?」
「いいですけど、明日晴れる、とかはなしですよ。一日中空を見張ってはいられないんだから」
「ふふ、もちろんだ」
占い師はそう笑って俺の左手から指を離し、パチリと一拍手を叩く。妙に真剣な、全てを見通すような視線で目の前の何もない空間を睨みつけてから両手のひらで顔を塞いでその隙間から何かを祓うようにスゥと息を吐き出した。
わずかな時間だけれども、その所作の美しさと神々しさは妙に俺の心を打った。
「3分後に雨がやんで、12分後にきっちり晴れ上がる。そしてキレイな橋が描けられて男女は再び巡り合うだろう。東の魔女オステンスが天地神明に誓って」
「は? え?」
面食らう。3分後? 12分後? さきほどのふわふわとのれんに腕押しな返答と違って妙に具体的なその時間。困惑している間に魔女は続ける。
「ちゃんと晴れるから。晴れたら約束通りお兄さんはすぐにこのアーケードを出てまっすぐ進んで、最初の大通りで駅の方に向かわずに右に行くんだ。これが最後のチャンスだから。そうしないと、お兄さんはいつまでもぐじぐじと後悔するよ」
「右に?」
「そう。右」
ふいに、音がやんだ。振り向いた。
背中にぞわりと何かが駆け抜けた。
雨が、あがった。
外を見るとまだ雲はもくもくとしていたけれども雨は確かに止んでいた。さっきまで絨毯爆撃のように雨が降り注いでいたのに。呆然とする。
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