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魔界の呼び出しは通常、周りには分からないよう配慮されている。
天使たちがいる天界とは違い、個人主義が尊ばれているため、このような仕様となっているのだ。
それでも失敗が十回以上重なれば否応なしに噂になってしまう。
島崎亜理子は周囲のひそひそ声をよそに黒いローブの裾をひらめかせながら執務室に着くと、その扉を叩いた。
「入りなさい」
監査官オーウィスは机上に置かれていた分厚い書類から顔を上げ、亜理子に目の前にある椅子に腰掛けるよう促す。
「なぜ呼び出しを受けたか、分かるか?」
天界も魔界も外見は参考にならない。
オーウィスも見た目は三十代前後だが、その数倍は軽く歳月を過ごしていることは、魔界に籍を置く者なら、周知の事実である。
亜理子は居ずまいをただした。
「失業ということでしょうか?」
見習いになってからというもの、一度として成功したことがないのでその言葉がしぜん、口をついて出たのだが、オーウィスは首を振った。
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