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「それは相手の感情を察しているときもあれば、邪推のときもあります。でも根本的には見ている側、自分自身の感情が投影されているんです」
確かに、お客さんは一言も「帰れ」とは言わなかった。私が自分の営業に自信がないから、お客さんが嫌がっているのではないかと常に考えていた。
「ロボットの表情からロボットの感情を推測するのは、『相手の感情を察する』という訓練にもなりますし、『相手がどう思っているか判断するのは所詮自分次第』という視点の変化にもつながります。どちらの意味で使うかは、使う人次第なんです」
相手がどう思っているか判断するのは所詮自分次第。私にはそちらのほうが必要に思えた。
「そうだ、忘れないうちに言っておきます。明日、お二人に渡しているロボットをこちらに連れてきてほしいんです」
須原さんは「持ってくる」ではなく「連れてくる」と言った。それだけで、ロボットがあのアパートでぽつんと一人取り残されているように思えるのだから不思議だ。
「お渡ししてから十日も経っていないのでちょっと早いかもしれないんですが、あのロボットの働きをお見せします」
翌朝、いつものように出勤の準備をした私は最後にテーブルの上のロボットを手に取った。キャラメルを思わせるカクカクしたロボットだが、手触りは滑らかだ。
「今日は、一緒に会社に行くよ」
ロボットに声をかけると、ロボットの目がゆっくりと明滅した。私はその光を了承とみなした。嬉しそうにしたかどうかはわからなかった。
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