第6章 夏が終わる焦り

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「あ、えーと、休めたかな? お正月なんてまだ先だからわからないけど」  ――帰れるときは早めに連絡ちょうだいね。いろいろ準備もあるんだから。 「わかった。ありがとう」  わずか数分電話で話しただけなのに、切った後はどっと疲れてしまった。図書館に戻ってゆっくり本を読む気分も失ってしまい、図書館の建物を出て駐輪場に向かう。エアコンで涼むためにも休日は図書館で過ごそうと思っていたのに、すっかり予定が狂ってしまった。  外に出ると太陽光が肌の表面を焦がしてくる。それ以上に体の内側からじりじりと焦燥感が湧き出していた。  アルバイトを始めたばかりの頃は昼休みに求人サイトを眺めていたのに、須原さんの倉庫に通うようになってからはいつの間にか見なくなっていた。最近の昼休みは山岸さん――結菜ちゃんと音楽の話ばかりしている。  「年下なんですから、苗字にさん付けじゃなくていいですよ」と言われて、結菜ちゃんと呼ぶようになっていた。結菜ちゃんからは「果純さん」と呼ばれている。八歳も年下の友人ができるとは思っていなかったので、くすぐったくて新鮮だった。  TRCの居心地がいいのでついつい忘れてしまいがちだが、今の身分はただのアルバイトだ。いつまでもこの生活を続けていられない。年末になっても正社員の職を得られず、家族に嘘をつき続ける自分を想像して思わずぞっとした。  アパートに戻ると、日当たりのいい締め切った部屋は暑い空気が充満していた。エアコンをつけると大げさな音を立てながら風が吹き出してくる。室内が涼しくなるのを待たずにパソコンを開き、久しぶりに求人サイトにアクセスした。
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