第6章 夏が終わる焦り

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 須原さんがゴーグルとグローブ、そしてヘッドホンをテーブルに並べる。VRシミュレーターを使うのは久しぶりだった。グローブをはめてゴーグルを装着し、ヘッドホンを手に取ったところで須原さんが言った。 「面接相手は藤沢さんが知っている人なのでやりづらいかもしれませんが、とりあえずやってみてください」  倉庫の部屋の景色が一度消えて目の前が真っ暗になる。視界に明るさが戻ると、私は会議室にいた。所長室と同じフロアにある、フローリング張りの会議室だ。すでに椅子に座っている態勢なので、すぐに面接が始まるのだろうか。VRだと分かっているのに緊張で鼓動が速くなるのを感じる。  ドアをノックする音が聞こえ、私は慌てて立ち上がった。入ってきたのは佐野さんだった。TRCで研修用の映像を作っているとしたら、佐野さんが出てきても不思議はない。 『これから受ける会社だと思ってしゃべってください』  ヘッドホンから須原さんの声が聞こえる。そうだ、これは模擬面接なのだ。気を引き締め、背筋を伸ばした。 『どうぞおかけください』  佐野さんに言われ、私は「失礼いたします」と言いながら腰を下ろした。昨年の就職活動のときに散々叩き込まれたマナーだ。 『まず、弊社の志望動機をお聞かせください』  志望動機なんて佐野さんの口から聞いたこともない単語だった。なんせここのアルバイトは応募すれば即採用だったのだから。
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