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「そしてもう一つ。自分が相手に『合わせてあげている』と思っていても、実は相手も自分からの影響を受けています。藤沢さんは『ロボットに合わせよう』と思っていましたが、その速度を学習してロボットも『これが藤沢さんの歩きたい速度だろう』と判断していました。コミュニケーションって双方向なんです。人間関係でもあると思います。『相手に合わせている』と思っていても、実は相手も自分に合わせているんです」
須原さんの言葉が、私の過去の記憶を掘り起こした。
私には学生時代、付き合っている恋人がいた。アルバイトや勉強で忙しい人だったので、相手の都合に合わせて呼び出されれば自分に予定があっても夜遅い時間でも会いに行っていた。私がどうしたいかなんて、一度も相手に伝えなかった。
三年生の秋になる頃に「勉強に集中したいから」という理由で別れを告げられた。私はずっと相手に合わせてあげていると思っていたけれど、あっちも「彼女のためにわずかな時間を割いて会ってあげている」と思っていたのかもしれない。お互いが何も言わなかったので、今となってはわからなかった。
それこそ須原さんが言うとおり、「自分が表出したものしか受け取れない」のだ。あのとき私の望みをもう少しだけ伝えていたら、状況が変わっていたのかもしれない。
「そもそも、歩行という行為自体もコミュニケーションと同じです」
須原さんの声で、学生時代の苦い恋愛から現実に引き戻された。須原さんは椅子をずらすと、靴で床を踏みしめた。
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