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そう願った、その時。
「なーにしてーんの」
ドンッ!と何かを思い切り叩く音が聞こえた。
うつむいていた顔を上げると、そこには見知った顔がいた。
「…ゆう、と」
届かない言葉を彼にこぼす。
「え、えぇっと、その…」
今まで、俺の陰口を言っていたやつら、クラスのほとんどが忙しく動かしていた口を閉じて視線を彷徨わせる。
「ほら。もっかい言ってよ。誰が、何だって?」
にこ、と笑う優斗の迫力に誰もがたじろいでいる。せかすように指で机をたたく優斗をよそに全員が黙りこくったままだ。
「これって、さ」
優斗の言葉に体を揺らすクラスメイト。彼の次の言葉を待つようにおずおずと視線を上にあげる者もいた。
「これってさ…いじめって。捉えて良いよね」
その言葉に一斉にサァ、と血の気が引いて顔が青くなっていく。
「い、いじめって…か、勘弁してくれよ、優斗。そ、そんなわけないだろ、なぁ!」
クラスメイトの一人が同意を求めるように声を大きく響かせる。それに便乗しようと口を開いた何人かを遮って優斗は口を開いた。
「いじめだよ」
「だからっ違」
「いじめだよ」
「違うって」
「いじめだよ」
「これは誰が何と言おうと、いじめだよ」
「根も葉もないうわさ話に踊らされてあることないこと旭の前で言って、嗤って。これがいじめじゃないって、なに?」
まっすぐ、瞳を見つめて言う優斗に耐えられなくなり、視線を逸らす。女子の一人はがくがくと震えていた膝が限界をを迎えて崩れ落ちた。
「別に、さ。今自分たちが言ってた全部が嘘だって最初から分かってるんだろ、みんな」
「優斗はあの顔で頭結構いいし、なんだかんだ言って優しいからね。さっき渡した石もきっと使ってくれるだろうし」
なんとなく思っていたこと。この夢を見て自分が思っていたこと。いま、確信に変わった。
「だから、優斗のこと。羨ましいんだろ?少しくらい、いやなうわさがあればいいって思ったんだろ?」
「見た感じ旭は言っても気にしてないように見えるからね。何言ってもいいと思ったんだろ?」
これは、自分が帰った後の教室なんだ。
あの後、何が起こったかを、俺に見せているんだ。
優斗の独壇場になっている教室を見る。
優斗にはっきりと「いじめ」と言われて震えあがっているもの、放心している者がほとんどだった。
「……さい」
「ん?」
小さくつぶやいた誰かの言葉に優斗が耳を傾ける。
「ごめんなさい、ごめんなさいごめんなさいごめんなさい…!」
その言葉を皮切りに、そこかしこから謝罪の声が上がる。巻きあがる謝罪の嵐に優斗が頬をかきながら口をはさんだ。
「謝罪合戦のトコ悪いけど、謝るのは俺にじゃないよね」
その言葉にあげていた声がピタリと止まる。
「まぁ、今回旭って極稀にあるネガティブ旭だったからいつもよりわかりやすく傷ついてただけで、ホントは全く気にしてないけど傷だけ溜まってくんだよね、あいつ」
「旭自身謝罪は要らないだろうから、あとはみんながどうするか、だよね」
そう言った優斗はそのまま教室を出ていく。
「ゆ、優斗?」
「んー?俺も帰る。今この状態じゃ居づらいしね」
優斗の姿が見えなくなったとこでだんだんと景色が遠ざかっていく。
その代わりのように、遠ざかる景色の中心から光が発し始めた。まぶしくなる光に飲み込まれるように自分の体すら見えなくなっていく。
目の前が光で満たされた。
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