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「ハッ!」
ガバッ!と勢いよく起き上がる。
あたりには光があふれていて、朝を迎えたことを知らせていた。
「…月の石」
月の石を思い出して、石を握った右手を見るとその姿はどこにもなかった。ベッドから出て探し回ってみても一切見つかることはなかった。
家を出て学校へ向かう。
結局支度が出来た後、家を出る時間になるまで石を探し続けたがやっぱり見つからなかった。どこに行ったものか、と考えてももう候補が見当たらない。
「…まぁ、いいか」
その言葉をつぶやいて、ストンと胸に落ちた。
そうだ、見つからなくてもいいじゃないか。その方が、正しいような気がした。
ふと、後ろから気配を感じてとっさに右へ避ける。
「あっさひー!ってなんで避けるんだよ!」
「普通避けんだろ」
「そういえば!あの石どうだった?悪夢見た?あれって悪夢を消してくれるんだってさー」
悪夢か、と心の中で反芻する。あれは、確かに悪夢だったんだろう。途中までは。それを、優斗が消してくれたんだろう、多分。あのままだったら確実に悪夢だったのは確かなのだから。
「……」
「あさひ?」
「…教えねぇ」
「えーケチ」
「何がケチだ」
いつものように軽口を叩きあう優斗を見つめる。
昨日のことで学んだのは、「明晰夢は記憶が残る」だった。と、いう事で残っている夢の記憶を思い出す。
夢の中では俺は現実に起こったことだと思っていたが、自分の知らないことが夢に出るだろうか。空を飛ぶ、なんて夢はそれを見たやつがイメージしたから、夢で可能になるわけで。
今回の夢は想像もしていないことが起こったからあの夢は本当に夢で、現実に起こったわけではないのだろうか。けれど、あれは現実の話だったとなんとなく確信めいた自信がある自分もいる。
うんうんと考えていると、突然ペチン、と額を叩かれた。
「うおっ!」
「あさひーシワ寄ってんぞー」
眉間をぐりぐりと押す優斗を睨みつける。が、やっぱり気にも留めない。
「あれを信じるかどうかは旭しだいだぞ」
思わずバッと優斗の方を向く。
後ろに手を回して歩く優斗は、空を向いていた視線をこちらに向ける。
その口元はうっすらと笑っていた。
「……うるせぇ」
「なっ!何がうるさいのさ!」
「存在がうるせぇ」
「なにそれ!?」
ぷんぷんと怒る友人から視線を外して前を見る。
目の前にある太陽は今もじりじりと肌を焼く。けれど、その向こうにある空はどこまでも青くて。
「……ありがとな」
同じように前を向いていた優斗の目がこちらを向いた。
「なーにが?」
「…やっぱうるせぇ」
「ひどっ!」
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