前編②  ダレノマエニ・タチマクリー

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前編②  ダレノマエニ・タチマクリー

「……アンタ頭は大丈夫? アンタ達の居場所、今、アタシが気づいてるワケ。わ・か・る? もしアタシが盗賊だったらどうするつもりだったのかしら?」  あれ? 何よ、このオッサン。いっちょまえに、イラっとした表情なんか見せちゃって。 「おい、お前こそ相手の力量を確認する前に調子コイた物言いしてると、大怪我をすることになるぞ」  なんですって?! 今度はアタシの方がイラッとしてきたじゃないの! 「ハン! アンタって、どうやら世間を知らない田舎者のようね。いいわ、アタシの実力をほんのチョットだけ見せてあげるわ。泣いて謝ったって許してやらないんだからね!」 「……ほう。俺が泣いて謝るだって? いいだろう! オマエこそ俺の魔法を見てチビるんじゃねえぞ!」  コイツ…… もう容赦しないんだから、なんてことを思っていたら—— 「もう! カイセイさん、やめなさいよ! こんな子ども相手に本気を出すなんて大人気ないわよ!」  何よ、この女! 物知り顔して口をはさんでくるんじゃないわよ。ブカブカローブのくせに! それから、このオッサン、『カイセイ』って名前なのね。何よ、その変な名前。 「誰が子どもよ! アンタの方が子どもでしょ! ガキはすっこんでなさいヨ!」  アタシは叫んだ。これはもう、イラッとしたなんてレベルじゃないわ。ブチ切れてるって言ってもいいぐらいよ! 「誰がガキですって? 悪いけど、絵に描いたようなガキのあなたにだけは言われたくない台詞だわ」  ナニイッテンダこの女? ああ、そうか。コイツらみんな、アタシのこと知らないんだ。我が国において3人しかいない中級魔法の使い手の一人、このホニーさんのことを。なんだか怒りを通り越して、可哀想に思えてきちゃった。  あっ、ちなみに上級魔法を使える魔導士は我が国にはいないの。だからアタシが最強ってワケね。 「……ふう。まったくヤレヤレだわ。まだこの国に、アタシのことを知らない世間知らずがこんなに沢山いるなんて」 「……世間知らずはどっちかしら? あなた、いったい誰の前に立っているのかわかってるのかしら?」  あっ! その『誰の前に立ってるんだ』って台詞、アタシが憧れてた超カッコイイ冒険者、オトコノフェロ=モン・デマクリーさんの決め台詞じゃないの!  この人、台詞があまりにもカッコ良すぎて、名前と台詞がゴッチャになった愛称『ダレノマエニ・タチマクリー』って呼ばれてた伝説の人なんだから。  この女、ド素人の分際で、何エラソーに有名な台詞使ってんのよ!  ……仕方ないわね。これはほんのちょっとだけ、アタシの実力を見せてやるしかないようね。
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