前編③  山で溺れる少女

1/1
10人が本棚に入れています
本棚に追加
/20ページ

前編③  山で溺れる少女

 アタシは火魔法の詠唱を始めた。でも安心して。ほんのちょっと火傷する程度の威力に抑えてるから。この世界ではちょっと火傷するぐらい、日常茶飯事だと思うの、たぶん。  アタシの詠唱は続く。  あと少しで魔法発動というところで——  ——バッシャッァァァ!!!  なんで!? …………アタシは大量の水をぶっかけられた。  え? あのカイセイって言うオッサンがアタシに水魔法をぶつけたの? しかも—— 「む、無詠唱ですって……」  何よコレ? …………コレって、アタシが言ってみたい台詞ベストファイブに入る言葉じゃないの! まさかこんなところで使えるなんて! いや、今はそんなこと考えてる場合じゃないわね。  無詠唱で魔法を放てる魔導士なんて…… 日本風に言うなら、頭の上にツチノコを乗せたカッパの正体が実はナマハゲの格好をしたネッシーだったっていうぐらい、それはもう、あり得ないことなんだから! あれ? ネッシーは日本じゃないんだっけ?  なんてことを考えていたら…… 今度は詠唱を終えた、あのイケスカナイ女がアタシ目掛けて水魔法を放ちやがった! 「ゴボゴボゴボ…… チョ、チョットやめなさいよ! 溺れるでしょ。なんで山で溺れなきゃなんないのよ!」  この女、頭がイかれてるわ! こんなところで魔法を使うなんて! アタシも使おうとしてたんだけど、それはここでは触れないでおくことにするわ。 「おい、アイシュー! 何やってんだよ?! オレはコイツの詠唱をやめさせるつもりで魔法を使っただけだぞ!」  オッサンが叫ぶ。この嫌味な女、アイシューって言うんだ。あれ? その名前、どこかで聞いたような…… 「あら? 私もそのつもりだけど? カイセイさんったら、私が魔法を発動させる前に、さっさと終わらせちゃうんだもん。私、途中で魔法の発動止められないから、ちょっとだけ彼女に水がかかっちゃった、てへ」  ……嘘よ。コイツ嘘をついているわ。清純そうな顔して嘘をついている。そして怖い。目が笑ってない。それから、このカイセイって言うオッサン、相当ヤバイわ…… 無詠唱なんて本当におとぎ話ぐらいでしか聞いたことないわよ……
/20ページ

最初のコメントを投稿しよう!