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「お前……何言ってんだ」
「裕ちゃんのお母さんって、勘違いしてるんだよね。僕が勉強を頑張る理由は、裕ちゃんの住んでる都会の学校に進学したいからなんだ。素直に親の言うこと聞いてるのも、上京するのを許してもらうため。裕ちゃんはどうせお盆休みぐらいしか来ないでしょ? だから僕がそっちに行こうと思ってるんだ」
畳の上についていた俺の手の上に、充也の熱を帯びた掌が重ねられる。動揺のせいか、とっさに振り払うことが出来なかった。
「そんな驚いた顔しないでよ。小さい頃から僕にべったりで、ずっと傍にいろって言ってたじゃん」
「それは、小さい頃の話だろう」
まだ小学生ぐらいの時に連れまわしていたのは間違いないし、傍にいろと言ったのは確かだ。でもそれは幼少期の思い出の一つであって、今でも有効だとは到底思えない。
「何言ってんの約束でしょ。指切りまでしたんだよ」
「だからそれは、小さい頃の話で――」
「裕ちゃん。約束は約束だよ」
重ねられた手を取られ、充也が小指を絡ませてくる。
「僕がそっちに行ったら、休みの日じゃなくても会えるね」
唖然とする俺とは正反対に、充也は嬉しそうに笑う。
力強い指はまるで、あの時の約束は無効になっていないと告げているようだった。
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