指切り

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 毎年の帰省をためらうのは、従兄弟の充也が原因だった。  高一の彼は小さな田舎町には勿体ないぐらいの頭の持ち主で、全国の学力テストでも上位の成績を収めている。  一方俺は高二で、都内の私立高校に通ってはいるものの学力はイマイチ。学校の授業に縋りつくのがやっとだった。  母は度々俺と充也を比べては、それはそれは深いため息を吐く。 「いいわよね。充也くんは、素直だし頭も良くて」と、毎度おなじみのセリフを嫌味ったらしく俺に向けるのだ。  そんなこともあって俺は内心、充也が苦手だった。  一緒にいると嫌でも比べられ、その度に劣等感に苛まれるからだ。  だから帰省期間中はお墓参りの時以外、あてがわれた部屋に籠った。  もちろん母は良い顔をしない。若いんだから外で遊びなさいだなんて、小学生に言うセリフを高二男子に言うのだから面倒くさい。  俺が母の言葉を無視して部屋でスマホをいじっていると、充也が顔を出す。それから遠慮がちに「何してるの?」と聞いてきた。  まさか部屋まで来るとは予想外で、俺は驚いて寝そべっていた体を起こした。 「何って、別に何も……」 「一緒にいてもいい?」  断る理由も見つからず、俺は頷いた。ほっとしたような表情で、充也が本を片手に部屋に入ってくる。そのまま俺の隣に腰を下ろす。
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