第16話 「せーの」

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第16話 「せーの」

「すーっごい美味しかったぁ〜っ! ふへへ、クジラくん、ありがと〜、今日はとっても楽しかったよぅ」 「そりゃよかった」  きらきら、お揃いのエンゲージリングを左手薬指に光らせて、わたしとクジラくん──それからトリケラトプスくん──は自宅へと戻ってきた。  一流のシェフが作ったであろうホテルの料理は、どれも美味しすぎて感激の嵐。ついでにお酒の種類も多種多様でとにかく美味しすぎたため、すっかり飲みすぎてしまったわたしはすでにベロベロに酔っ払っているわけで。  カーペットの上にぺたんと腰を下ろし、わたしは酔った勢いに任せて彼に抱擁をねだる。 「ねー、クジラくん〜、ぎゅーってして〜」 「んー? ひーちゃんは甘えんぼうだね、俺に抱きしめて欲しいの?」 「ふふ、違うよぉ、わたしがぎゅーってしてあげたいの」 「あー、そっか。じゃあ遠慮なくどうぞ」  両手を広げられ、わたしは満面の笑みで彼の腕の中に飛び込んだ。ぎゅっと強く抱きしめながら擦り寄り、そのまま彼をソファへ誘導して座らせる。  膝の上に跨ったわたしは、クジラくんの首筋に顔を埋めて唇を押し付けた。 「あらら、積極的だね、ひーちゃん」 「ふふー、クジラくんにだけだよぉ……? わたしね、クジラくんのこと大好きだからねえ、たくさんちゅーしてあげるのー」 「ワーイ、ウレシーナー」 「あはっ、ぜんぜん嬉しくなさそーだねえ」 「んー、俺はされるよりしたい派だからね」  薄く微笑んだクジラくんはそう言って、わたしのワンピースのボタンを外して襟を広げる。あらわになった胸元に彼も触れてこようとするが、わたしは「だめー」と素肌を隠した。  不服げなクジラくんと目が合い、その口が開かれる。 「えー、なんで。ケチ」 「なんででもだめー。今日はねえ、美味しいものたっくさん食べさせてくれたから、わたしがクジラくんにお礼するの!」 「……お礼?」 「うん、お礼! たーっくさんちゅーしてあげる」  ふふ、と微笑みながらクジラくんの服を脱がし、綺麗な肌に口付けを落としていく。クジラくんはくすぐったくそうにみじろぎながらも、わたしの行動を止めようとはしない。  腹筋に沿って唇を押し付け、次々と移動しながら時折軽く吸い上げた。キスマークが付くほど強くは吸い上げず、程々に音を立ててたわむれるように啄んでいく。  繰り返す口付けの合間に舌を伸ばし、つうと素肌に滑らせてみれば、「ひーちゃん、なんか小動物みたい」と小さく笑われた。  わたしは頬を膨らませ、彼を見上げる。 「……へたくそ?」 「んー、慣れてなくて可愛い」 「へたくそってことじゃんっ!」 「あはは、怒んなよ。で、もう終わり? たいしたことないですねー、奥さん」 「む……。ま、まだまだこれからだから!」
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