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* * *
その日の夜。入浴と寝る準備も済ませて、ほのかに残っていた酔いも醒めてしまった頃。
わたしとクジラくんは、引き出しの奥にずっと眠らせていた〝逃げ道〟を、ついに戸棚から引っ張り出していた。
用紙の端同士を二人でそれぞれ摘み、微笑みながら、互いの顔を見合わせる。
「それじゃ、いくよ」
「うん!」
彼の言葉に頷き、満面の笑みを向けるわたし。まさかこの離婚届を前にして、こんな笑顔を浮かべる日がくるとは思いもよらなかった。
クジラくんもまた、わたしと同じように幸せそうに微笑んでいる。
そして二人一緒に、「せーの!」の掛け声を、大きく喉から張り上げて──
びりっと綺麗に、〝逃げ道〟は破り捨てられ、わたし達はまた、顔を見合わせて笑ったのだった。
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