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第1話 クジラくん
一度溶けたアイスを冷凍庫に入れて、また固めると、なんだか溶ける前より味が劣っちゃうような気がするでしょ?
十四の頃に生まれて初めての彼氏が出来た時、嬉しくて浮かれきったわたしの脳みそは、きっとあんな風に一度どろどろに溶けてしまったんだと思うんだ。
だって、そうじゃなきゃこんなの到底納得できない。
自分の男運が、こんなにも悪いだなんて。
「──ちょっと、誰よこの女!! 何でこの家の合鍵持ってんのよ!? アンタまさか浮気してたわけ!?」
「ち、違うよミカちゃん! この人は、その……家事代行の家政婦さんで! えーと、名前は田中さん! ね、田中さん、そうだよね!!」
視界の先には、必死に弁明を紡いでわたしに目配せする半裸の男と、マツエクで武装されたバサバサの目を吊り上げて怒鳴る見知らぬ女。
そんな二人を愕然と見つめて立ち尽くすわたしは、残念ながら〝家政婦〟でも〝田中〟でもございません。
ほんの数分前まで、自分がこの性悪クソ男の本命カノジョだと思い込んでいた──ただの哀れな当て馬女でございます。
「……え、えへへ〜、あー、そのー……。お取り込み中、失礼しましたぁ……」
神崎 ひより、二十二歳。
今年に入って三度目の失恋です。
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