436人が本棚に入れています
本棚に追加
/278ページ
「めっちゃイケメンじゃん彼氏!!初音ちゃんって見かけによらず面食いなのね!?」
「…いや、そういうわけじゃ…」
「しかもバイト先まで迎えに来てくれるとかチョー優男じゃん!」
「……」
“優男”なんて言葉、あの男には一番似合わないと思う。
現にこの間 迎えに来ていたのだって、自分のマンションの鍵を紛失させてしまったからであって、決して私の身を案じての行動じゃない。
そう思ったけれど、それを口にする事はやめた。なるべくあの男の話しはしたくないから。
そんな私の心境なんて知る由もないミクさんは「うらやまし~」と、本当に心底羨んでいるような声を出して、矢継ぎ早に口を開いた。
「ね、付き合おうと思った決め手ってなんだったの!?」
ズイ、と顔を近づけて、食い気味にそう問われた。
「決め手…」
「うんそう、決め手!」
お盆の淵に黒く煤けた汚れが付いているのが目に入って、いっそう力を籠めて布巾を往復させればキュ、キュ、と耳障りのいい音が微かに響いた。
その音を耳に受け止めながら、
「…信用、してなかったからです」
ちいさくそう零せば、ミクさんは「え?」と目を丸くした。
最初のコメントを投稿しよう!