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やっぱり輝一はどこまでも輝一だ。
どうやら熱に魘されている時くらいしかこの男は素直にならないらしい。
…まあ別に、例え一度だけだとしても輝一の気持ちを知れた事には変わりないから、それでいいんけど。
「なんだよ」
「んぎっ」
そう思いながらもジトリとした眼差しを送っていると突然ムギュ、と鼻を摘ままれて、変な声が出てしまった。
「変な声出すなよ」
「っじゃあ離してよ!」
ケラケラ笑う輝一の腕をパシッと叩くと輝一の手からふっと力が抜ける。鼻が解放されたかと思えば、すぐにその手は首裏に回った。
そのままぐ、と引き寄せられる。
角度をつけた輝一の顔が近づいてくるのが見えた刹那、唇にやわらかく、あたたかいものが触れた。
「…もう移んねえだろ、多分」
「…、」
ちゅ、と微かなリップ音をつけて離れたそれが掠れた声を紡いだから、堪らずにその首に腕を回した。
「…移しても、いいよ」
ぎゅう、と抱き着いて、深く息を吸い込む。
輝一の匂いが私の中に充満して、それだけで泣きそうになった。
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