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たくさん遠回りして、たくさん傷ついて、たくさん泣いたけど、このあたたかい腕の中に帰って来れて良かったと、心の底からそう思う。
移り気な心は孤独に耐えきれず、楽な方へと逃げようとする。
だけど私はもう、迷わない。
不安定で、不完全で、不明瞭なこの気持ちを大事に抱き締めて、この男の一番近くに居ると、決めた。
しがみつくように抱き着く私の頬に輝一は唇を寄せる。顔が見える位置まで身体を離せば、輝一は私の目尻をその指先で、やさしく撫でた。
撫でられる感覚が擽ったくて、目を細める。
「…どーする?隠す?」
そんな私に輝一は囁くような音量でそう聞くから、ふるふると首を横に振った。
「…いらない」
もう隠す必要はない。
覆うものも隔てるものも、何もいらない。
はっきりとそう言った私に、輝一は少しだけ口角を上げて、薄く笑った。
そしてゆっくりと近づいてきた唇が、私のそれに再びやさしく重なる。
ただ都合がよかっただけの場所が、いつの間にか自分でも知らないうちに、私の中で一番 心地よい場所になった。
そう思っているのは私だけじゃないと、そう信じたい。
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