迷妄

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携帯が鳴って、メッセージではなく、わざわざ電話をかけてきたことを不思議に思いながら、未来は電話に出た。 「未来、家にいる?」 ただごとではない綾香(あやか)の様子に、未来は何事かと驚く。 「いるよ。仕事は終わったの?」 「うん。今から行くから待ってて。」 こちらの都合も聞かずに、一方的にそう言われて、ますます心配になった。 「何かあったの?」 「もう電車に乗るから、行ってから話す。じゃあね。」 炊飯鍋のプロジェクトが始まってから、綾香とは会っていない。 上に住んでいる清瀬とつき合っているのだから、ここにも来ているのだろうが、未来が忙しいのを知っているから、顔を出すことはなかった。 清瀬と喧嘩でもしたのかな、と未来は後輩の温和な顔を思い浮かべて、首を振った。 どちらかと言うと、原因は親友の方にありそうだなと思ってから、心の中で綾香に謝る。 青島は出張だし、明日の打ち合わせを前に、やっとの思いで仕事を終えたところだったので、タイミングも良かった。 綾香を待つ間、ぎくしゃくしたままの青島を思って、心が痛む。 明日、青島が帰ってきたら、マンションに行こう、と未来は不機嫌そうな恋人の顔を、思い出していた。 しばらくて事務所のブザーが鳴り、引き戸を開けた未来の前には、息を切らした綾香が立っていた。 「どうしたの?そんなに慌てて。」 「早く、話したくて。」 立ち仕事を終えて来た綾香は、ドサっと椅子に座ると、すぐに携帯をいじり始めた。 「アイスコーヒー?お茶?」 「どっちも〜。」 急いで来た割には、未来の方を見ようともしない綾香に肩をすくめながら、未来は部屋に入って行った。 「はい、どうぞ。」 綾香の前にグラスを2つ置いてから、自分はアイスコーヒーを入れたグラスを手に、向かいに座る。 「ありがとう。」 綾香はそう言って、お茶の入ったグラスを手にすると、一気に飲み干した。 「これ、見て。話すより、見た方が早いと思って。」 来るなり携帯を触っていたのは、見せたいものがあったからなのかと、言われるがまま綾香から携帯を受け取った。 それは誰かのブログのようだった。 『とうとう出会っちゃいましたぁ。  素敵な人。』 『綺麗系な女性には興味なさそう。  可愛い系の女になってアピール!』 『真面目系から可愛い系にイメチェン。  みんなは目の色変えたのに、彼は反応なし。  そんなクールなところも素敵。』 綾香に言われるがまま、どこの誰のものか分からないブログを読んではみたものの、残念ながら未来には全く興味のない内容だった。
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