迷妄

4/4
前へ
/4ページ
次へ
「言ったでしょ。松本明穂には妄想癖があるって。社長様に限って、ありえないって。」 未来も青島のことを疑っているわけではないし、明穂の勘違いだと思うが、不安は拭えない。 「これって宏さんに話すべきだよね。」 未来の言葉に、綾香は頷く。 「その方がいいよ。うちで問題を起こした時も、相手は彼女がいるのに思わせぶりな態度で、二股しようとしたって騒いだらしいの。でも相手の男の子や周りの証言で、挨拶程度に言葉を交わしただけだったんだって。一応、社長様も気を付けた方がいい。あしらい上手な気もするけどね。」 未来は綾香から、明穂のブログのアドレスを聞くと、ため息をついた。 「今日から、宏さん出張なの。」 そう言ってから、肝心なことを綾香に報告していないことに、気が付いた。 「仕事にも関わることだから、ここだけの話にしといて欲しいんだけど…、宮下君に会った。」 綾香は首を傾げてから、次の瞬間、大きな声を出した。 「宮下って、あの宮下?キャプテン宮下?」 綾香のネーミングセンスは、昔から変わっていたと未来は思い出し、声を出して笑う。 「そう、あなたと噂になったいう宮下君。私、知らなかった。そんなことになっていたなんて。」 おかしそうに話す未来を、綾香はぶすっとした表情で睨んだ。 そんな綾香に、宮下と再会した経緯を話して聞かせた。 「それで?今日は、社長様がキャプテン宮下と会ってるの?」 「会っているって言っても、仕事だよ。」 ふーん、と綾香は意味ありげな表情で、未来を見ている。 「懐かしいな。あの頃、未来とあいつが仲良くしてるのが嫌で嫌で。きっと社長様も、気に食わないはずだよ。あんな爽やかな好青年。」 「好青年って。同い年でしょ。」 笑顔になった未来に安心した綾香は、清瀬の待つ部屋へと帰って行った。 ひとりになった未来は、青島に電話をしてみようかと思ったが、やめておいた。 うまく電話で話せる自信がなかった。 だいたい仕事で行っているのだし、恐らく夜も接待を受けているのだろう。 それでも宿泊まで世話になるのは気が引けると、泊まるのは駅近くのビジネスホテルだと言っていた。 とにかく明日だ、と未来は気を取り直し、夕食の準備を始めた。
/4ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加