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~・~・~
また夕立が訪れた。
ここ数日、夕立続きだ。
そのせいで遊郭の中は外の世界よりも暑く、纏わり付くような熱に犯され続けていた。
遊藤楼唯一の男娼はその熱を忌んでいた。
元々、暑いのが苦手なのだ。
その上、ここ数日はハズレの客ばかりでその機嫌はすこぶる悪く、元から悪い男娼の愛想は『最悪』と言われるまでになっていた。
「アンタはいつまでムスッとしてるんだい! アンタはうちの看板でもあるんだ! しっかり働いとくれ!」
そう尻を叩いてくるやり手のヨシにも男娼は不機嫌なまま何も言い返さず格子に凭れ、格子の外の重たい色をした空を眺めていたのだけれど、それをヨシが『ちょっと!』と咎めてくることはいつもと同じくなかった。
男娼は特別だ。
だからやり手のヨシも一度男娼の尻を叩けば黙る。
男娼がどんなに気に食わない態度を取っていたとしても…。
「また夕立だ…」
男娼はぽつりと呟いた。
今宵もまた煩わしい熱に犯される…。
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