はじまり。

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はじまり。

今宵も軒下の赤提灯に火が灯った。 と、言うことはもう少しで大門が開く刻と言うことだ。 大門はこの遊郭唯一の出入り口…。 入るは易いが出るは難しい…。 そんな大門が開けば遊郭の中には色んな()たちが入ってくる。 それは骸に群がるうるさいハエのように…。 またはその骸を食い破り出てきたウジ虫のように…。 ちりりーん……。 薄いガラスの風鈴を湿気を帯びた夏の熱い風が揺らし、涼やかながらもどこか物悲しいその音を奏でた。 「夕立が来る…」 そうぽつりと呟いた男娼は怠惰の溜め息を吐き出し、いつもの席に着いてぼんやりと格子(鳥籠)の外の世界を眺めていた。
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