第1章 一匹目 揚羽黄柚子 Aパート

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 薫は丁寧にかつ手際よく虫ピンを刺し、標本用の木箱に揚羽黄柚子を固定した。 「小さい部屋かもしれないけど我慢してね」  牡丹は何も言わず薫の行動を見守り、最後にガラス板を渡した。薫はそれを受け取って、木箱にはめ込んだ。 「もう大丈夫だよ!」  薫は宝物に声をかけるようにガラスの向こうにいる揚羽黄柚子に言った。 「良かったね、薫君」  薫の一連の行動における真意が現時点では分からなかったが、薫が納得したことに牡丹は一安心した。 「さぁ、朝ご飯たべようか」 「はい」  目的を成し遂げた子供のように薫は素直に答えた。  朝食を食べている間も薫は箱を放さなかった。牡丹が食事の間だけは別の所に置くように伝えたが叶わなかった。 「ねぇ、牡丹さん」 「何?」 「どうやって、揚羽黄柚子を捕まえたのか知りたい?」 「教えてくれるの? 知りたい」  薫の主治医が診療した際、薫がまた同じように話してくれるか分からないので、牡丹は聞ける時に聞いておきたかった。個人的な興味がなかったといえば嘘になる。薫君の心を見たい好奇心がいつの間にか芽生えていた。あの蝶々を見たのが決定打だった。
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