第5章 五匹目 褄黒白絵 Aパート

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 薫の心は灰色に染まってしまったのか。自分もその色には染まりたくないと牡丹は、少しでも明るくしていようとした。いつの間にか鼻歌を歌っていた。 「牡丹さんは、月を見てロマンを感じたりしますか?」  唐突に薫が質問を投げかけて来た。 「んー、正直、ロマンは感じないかな。きれいだなって思ったり、やっぱりウサギに見えるって思うことはあるよ」 「他には?」  薫がさらに聞く。  あまりそこまで月を意識したことはなかったし、薫君は私にどんな答えを求めているのだろうか。持ち合わせている知識は小中学校で習う程度のこと。それもずいぶん抜けているような気もする。 「そうだな。私だけかもしれないけど、月の満ち欠けを見て自分の体調を考えたりする時はあるよ。って、薫君にはまだわからないかな」 「……」  薫の反応はない。私の言葉の意味がわからないんじゃない。期待していた答えではなかったからだ。 「昔も今も、人は月や宇宙に未来を求めていたんですよね? でも俺はそう思えない。単に政府が戦争の矛先を未来という言葉を使ってすり替えたようにしか見えません」
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