Bパート 前

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 富士越の街は、数ある雲の上の街でも大きな街で、港には大小様々な船が泊まっている。造船ドックもあり賑わっている。  港まで続くメインロードをイノガリは例の木箱を案内所で借りた台車に乗せて押していた。その前をハレミは気分がよさそうに大腕を振って行進している。 「で、なぜついてくる?」  最後尾を歩く薫は、隣に並ぶ紹介屋に言った。 「そりゃー、船が出る前に中身を確認されるとまずいから監視だ。ついでに見送り」  紹介屋の最後の一言は小声だ。 「見ねぇよ。仕事だからな。ん?」  薫は港に並ぶ船の一艇に目がいった。 「なんだ、この黒い船。重そうだな。ちゃんと飛ぶのか?」 「ほぉ。俺も初めて見たよ」  紹介屋もその船を見た。黒い鉄で造られ、一般的な木造の飛空艇とは雰囲気が違っている。クジラのような飛空艇がどっしりと停泊していた。物珍しいのか辺りには見物客が多くいた。 「黒鉄の飛空艇ですよ。どこかの金持ちが造らせたとかで、先の大戦中、砲弾が飛び交う間を無傷で通ったという噂話があります」  イノガリが台車を押しながら説明をした。
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