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第7章 飼い主 四季野牡丹 1
「おはよう!」
朝、そう言ってスライド式のドアを開けて病室に入ってきた花咲薫。
Yシャツに白衣をまとった姿で薫は、ベッドの上でうつむいている牡丹に歩み寄る。
牡丹は泣いて赤くなった目でチラリと薫を見た。泣き疲れているのか、何かの感情を表情でつくろうことはしない。
現実を知ってショックだったに違いない。薫は心をしめつけられた。しかし、いつかこの時が来ると覚悟はしていた。
「牡丹さん。朝ごはんは一口も食べれなかったみたいだね」
牡丹は胸の前で抱いていた布団に顔をうずめた。また彼女は泣き出してしまうのだろうか。けれど、もう泣き続けても無意味だ。現実を知って現実逃避をしては、ここに来る以前と同じ場所、振り出しに戻るだけだ。
そして、これを繰り返せば階層が一段ずつ増えていく自分の迷宮に、何度も足を踏み入れることになる。さらに抜け出すことが難しくなる。
ベッド脇の台の上にいつも置いてあるティッシュ箱。薫はその隣にある標本ケースを手に取った。いつもならガラス板がはめ込まれているが、今日はない。
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