第7章 飼い主 四季野牡丹 1

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「今朝目が覚めて、手の中にいたのは夢の中で捕らえたはずの女の子ではなかった。蝶の羽も生えていないただのティッシュペーパー。標本ケースの中にいた女の子たちも皆、紙だった。驚かない方がおかしい」  牡丹は起き抜けに突きつけられた現実にショックで標本ケースを壁に投げつけた。ケースは壊れなかったが、ガラス板は砕け散った。すぐに看護師が駆けつけ、取り乱した牡丹を落ち着かせる光景が薫の頭の中に浮かんだ。 「なぜ、今日になって紙に見えるようになってしまったのか。君自身、ずっと蝶の女の子たちを見ていたかったはずなのに、見えなくなってしまった」  薫は牡丹に話しかけず、自問自答するように口にした。 「そんなことわかりません」  牡丹はぽろっと口に出した。 「これは牡丹さんの心の中からのメッセージと捉えることもできる。そんな気がしないかな?」 「現実を知れと?」 「俺はそうは思わない。牡丹さんの世界で何か次へ進むことが起こったと思う」 「次へ進むこと?」  牡丹は今日見た世界を頭の中で思い出す。思い当たる所がないのか牡丹は首を左右に振って、ため息をついた。
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