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 他人を気にしながら、何者かの個人をアピールする。最後は強迫観念にかられて動いてました。それもすぐに体は限界を超えてしまいました。個人を演じなくてもいい世界がどこかにないか、ずっと考えを巡らせていた時、私は先生の言っていたスイッチを押したんだと思います」  牡丹は少し間を空けた。 「……」  薫は何も言わず、相槌を打つだけだった。 「誰しも誰にも言えない、理解されないものがある。でも皆、上手くそれと付き合えたり、解き放つことができたり、何かの流れに乗れたりしている。それを私はできなかった。自分という箱の中で私が腐っちゃった。わかっていたつもりだったのに……」  牡丹は肩の力を抜いた。全てを言い切ったように。 「牡丹さん。自分を責めない。牡丹さんの箱には、こんなに素敵な自分がいるじゃない」  薫は牡丹が抱えている標本ケースを指差した。 「素敵な自分?」
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