エピローグ

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 期日まで時間はほとんどなく、宣伝も十分できないから、画廊の費用は運営側が持ってくれた。  牡丹に課題を与えて一ヶ月半。最初のうちは悩んで集中できていなかったが、次第に他のことを忘れるくらい作業に没頭していた。素人目に見ても出来はいい方だと思って、牡丹を推す運びとなった。  画廊に入るとすぐに小さな受付があり、女性が「ゆっくりご覧下さい」と出迎えてくれた。  画廊には誰も客はいない。静かなものだ。ただ、天使の羽を震わせるようなやわらかな歌声の入った音楽が、この空間を包み込んでいた。  真っ白な壁が奥まで続き、左右の壁に沿って白い布をかぶった台が並んでいる。その上に牡丹の作品が置かれていた。  水槽のようなガラスでできた箱の中に、蝶の羽を生やした女の子がいた。「1.揚羽黄柚子」と書かれたプレートが作品脇に置いてあった。  薫はもう一度作品に目を戻す。
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