プロローグ

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 薫は最後の方を聞いていない様子だった。ずっと自分の手元を気にしている。まるで昆虫を捕まえたように、中の虫を潰さないよう両手で丸みを作っていた。牡丹が来る前から薫はそうしていたようで、牡丹はそれを気にしていた。しかし、病室の窓は開いてないので虫など入ってこない。窓は開けられないように固定されているのでなおさらだ。ガラスが割られている様子もない。昨日、通用口かどこからか迷い込んでしまったのだろうかと牡丹は考えていた。 「さぁ、朝食にしよう」  その両手のことを聞くべきだっただろうか。そう思いながら、ベッドをコの字にまたぐテーブルを薫のそばまでスライドさせた。 「あの、牡丹さん」 「何?」 「変なこと聞いていいですかって、俺、変だからここにいるんですよね」 「なになに、聞きたいことって?」  牡丹は笑顔を向けた。しかし、窓から差し込む陽の光りを浴びて陰影がはっきり現れた牡丹の表情は、薫を少し困らせた。 「こんなこと頼んだら、牡丹さん困りますよね?」 「言ってみないとわからないよ」 「いえ、やっぱりいいです。自分で何とかします」
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