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第2章 二匹目 赤星稲穂 Aパート
「おはよう!」
朝、そう言ってスライド式のドアを開けて薫の病室に入って来た牡丹。
室内は薄暗い。今日は昨日と同じように晴れているが、カーテンが閉まりきっていて陽の光りが遮断されていた。
まだ薫君は寝ているのだろう。牡丹は昨日の朝のやり取りを思い出し、目覚めの声を掛けてあげようと音をたてずにベッドに近づいて行く。
薫は布団を頭までかぶり寝ているようだったが、布団の中から何か聞こえてくる。
「……」
牡丹はさらに近づくとそれが何なのかわかった。薫のすすり泣きだと。
「おはよう、薫君」
布団の上からやさしく声をかけたが、薫は泣き続けているようで牡丹の声には反応を示さなかった。
「薫君。朝だよ」
もう一度牡丹は声をかけたが、やはり反応してくれない。声は聞こえているのだろうと牡丹は思っていた。
「ほら、薫君。朝の光りを浴びよう。気持ちいいよ」
牡丹はそう言いながら、ゆっくりカーテンを開けた。カーテンレールの動く音が聞こえなくなると、布団の中のすすり泣きも聞こえなくなっていた。
「薫君。起きれるかな?」
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