第2章 二匹目 赤星稲穂 Aパート

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 布団の中がもぞもぞと動きだし、ゆっくり薫の顔が出てきた。涙が目の縁に沿って横に流れていた。目は赤く充血している。  牡丹は男子の、しかも高校生が泣いた姿を見たのは初めてだった。学生時代から今に至るまでそういった状況に出くわしたことはなかった。むしろ、男子はほとんど人前では泣かないと思い込んでいたくらいだ。  こういう時の男子は甘えたいのだろうか……。  しかし、薫の表情を見ているとそれはないと感じた。薫は私のことを見ていないどころか、顔を私の方に向けてもくれない。まるで陽の光りに照らされるのを嫌っているようだ。 「どうしたの? 怖い夢でも見た?」  そう聞いておいて、そうじゃないんだろうと思っている牡丹。 「違うんです。俺、彼女を守ってやれなかった。いつも一緒にいたのに……」  薫が悲しんでいることはわかるけど、彼女とは一体誰なのか。牡丹は揚羽黄柚子がいなくなったのだろうかと思った。昨日の今日で新たな夢の続きを見たのだろうか。
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