第2章 二匹目 赤星稲穂 Aパート

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「彼女がいなくなったことを忘れようとしていた。すべてがつらかったんです。何もかも忘れて生まれ変わろうなんて、できる訳なかった。変えられるのは人生くらいで、自分を別人にすることは何をしても生きている以上はできないんです……」 「薫君はそう思ったんだね」 「……はい」 「つらかったんだね」 「……はい」 「話してくれてありがとう」  すると薫は袖で涙を拭い、布団の中から標本ケースを引きずり出した。  これを布団の中で抱えるようにしてうずくまっていたようだ。  牡丹はケースの中を見ると、蝶々の羽を生やした女の子がさらにもう一匹増えていた。  揚羽黄柚子の隣に並ぶその子は、黄柚子と同じアゲハチョウの形をした羽だが黒い。上の羽は白と赤の斑点が並び、下の羽は赤い斑点だけが並んでいる。黄柚子と違って黒に赤が混じる羽と、笑っていないその表情で何か強い印象を牡丹は受けとった。またこの女の子は両手を腰に当てて堂々としている。
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