プロローグ

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「なんでよ。私、困らないと思うよ。こう見えても何でも器用にこなしちゃうタイプなんだ」  牡丹は力こぶを見せるポーズをとった。 「器用さはあまり関係ないんですけど、朝食食べないといけないから頼んじゃいますね」 「良い子だ!」 「俺の手の中に蝶がいるんです」 「チョウ? 蝶々のこと?」 「はい。それで標本作りたくて、標本セットみたいなのってありますか? そんな都合よくありませんよね」  牡丹は、片目をつむり、人差し指をピンと立てて左右に振った。 「薫君! それがあるんだよ!」 「本当ですか?」 「工作ルームにあるよ。以前、薫君と同じように標本作りたいっていう人がいて、でも途中でやめちゃったの。それ使えるよ」 「やった!」 「標本作るのって、時間かかるよ」 「大丈夫です。もう、形になってるので」 「どういうこと?」  薫は手をどけて、蝶を見せてはくれない。 「標本セットを持ってきてくれたら、教えてあげます」  薫は手元を見つめたまま、微笑んでいた。
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