4人が本棚に入れています
本棚に追加
「お願い。薫の前では私を、この蝶のままでいさせて。心の中で私を住まわせて……」
稲穂が薫の耳元でつぶやくと、羽を広げた。
「わかった。好きなだけ居ろよ……」
二人はしばしの間、無言で見つめ合った。
そして、稲穂の表情が歪んだ。肌が変色し始めている。
「そろそろ、薫の中に入らなくちゃ」
稲穂は最後にそう言って、稲妻のごとく施設に向かって飛んで行った。
「稲穂――」
薫は息が切れるまで叫んだ。
薫はすぐに兵に抱えられて、森の中を出た。
薫はものすごい爆発の音を聞いた。
薫は森の中から立ち上る炎と爆煙を見た。
薫は心に赤星稲穂という蝶々を飼い始めた。その時から。
最初のコメントを投稿しよう!