プロローグ

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 牡丹はこの時、初めて薫を不気味に感じた。今まで接していてそんなことはなかった。少し人と話をするのが苦手なのかという印象で、全く本心を話したがらないので、正直考えていることがわからなかった。今日この時、初めて彼の心を覗くことになるんだ。心を開いてくれることに嬉しさもあり、恐くもあり。 「朝食、食べたあとじゃダメなの?」 「ほら、両手ふさがってるから食べられないですよ」  私が食べさせてあげるよと、牡丹は言えるはずもなく、 「標本セット持ってきて、蝶々を手から出したらご飯食べてくれるのね?」 「はい!」 「もう調子がいいんだから。じゃぁ、持ってくるから少し待っててね」 「はい。お願いします」  薫は軽く頭を下げた。  牡丹は足早に病室を出て行った。薫は病室のドアが閉まりきるのを待った。そして、 「もう安心だよ。あと少しで身体も俺が助けてあげるからね……」  薫は、丸みを作った手の中にいる蝶に小声でやさしく話しかけた。
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