4人が本棚に入れています
本棚に追加
時折、別の看護師が戻ってこない牡丹を心配して病室にやってくることがあったが、牡丹は平気だというサインを送り返していた。
牡丹は薫の夢の話で、一つ疑問を抱いていた。朝、薫の話では稲穂のことを忘れようとしていたと言っていた。しかし、夢の最後では蝶のままの稲穂を心に住まわすことになっていた。それでも忘れようとしていたのはなぜか。まだ続きがあるということだろうか。
結局は、薫の夢であり、心情の波にばらつきが生じていたのだろう。
牡丹はそこまで考えて、思考を止めた。
「牡丹さん」
落ち着いた薫が言った。
「何かな?」
「俺、いつかこの病院を出ることができたら行きたい場所があるんです」
「……どこ?」
外国か、見たことのない世界を見てみたいというのだろうか。意外にも身近で落ち着ける場所か。大学への進学か。そんなことを思いながら牡丹は聞き返した。
「お墓参りに」
「……」
牡丹は呆然として何も言えなかった。
最初のコメントを投稿しよう!