第3章 三匹目 志染紅子 Aパート

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第3章 三匹目 志染紅子 Aパート

「おはよう!」  朝、そう言ってスライド式のドアを開けて薫の病室に入って来た牡丹。  カーテンは薫のベッド付近だけ空けられ、明るくなっていた。薫は起き上がって、ベッドをコの字にまたぐテーブルの上に手を置いて、なにやら遊んでいる。その表情は明るかった。 「もうすぐ朝ごはんだよ。と、噂をすれば朝ごはんが来たよー」  薫の言葉は優しく、幼児に向けて話すように牡丹は聞こえた。  朝食を乗せたトレーを持ってベッドのそばまで行くと、薫の左手に例のごとく蝶の羽の生えた女の子がいた。右手には何もなく、指を使って人を模しているような動作をしている。  さっき薫が子供っぽい台詞を言っていたのは、右手の人物になりきってのことだろう。 「おはよう、薫君。新しい女の子?」  牡丹はテーブルの端にトレーを置いた。 「おはようございます、牡丹さん。この子は俺の妹ですよ。もう忘れちゃったんですか? 昨日、一緒に会いましたよね」 「えっ、あーそうだったね……」  牡丹は、そうだったかなと昨日のことを思い出した。しかし、実際はそうではなかったので答えるのに言葉が詰まった。
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