第1章 一匹目 揚羽黄柚子 Aパート

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第1章 一匹目 揚羽黄柚子 Aパート

 まもなくして、牡丹が病室のドアをやっとのこと開けた。牡丹の両手は、木の箱や標本にするための道具でふさがっていた。そして、それらを薫のベッドに置いた。  ガラス版がはめ込まれ、標本として飾っておけるしっかりとした木の箱が一つ。  展翅板(てんしばん)という蝶や蛾の羽を広げて形を整える木箱が三つ。それは数センチの高さがある直方体で、表には左右を二分するように中央がほんの少し隙間が空いている。その隙間に蝶の身体を入れ、羽を広げて固定する。  その他に虫ピンやマチ針の入ったケース、三角形に折りたたまれたパラフィン紙もたくさんあった。 「はい、薫君。お待たせ」 「虫ピンと標本用のこの箱だけでよかったのに。他のやつは使わないよ、俺」 「えー、セットでって言ったじゃん。でも、これとか使わなくていいの?」
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