Bパート 後

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Bパート 後

 そこは海。  天気は快晴、日差しはとても強い。  海面は波の揺れで光をランダムに反射させている。  風に乗って潮の匂いが広がっている。  海岸に沿って白いガードレールと車道が伸びている。  アスファルトの上に陽炎が見える。  そのずっと先の丘に風車が風を受けて回っている。  車は一台も通らず、打ち寄せる波の音と風の音だけが聞こえる。  薫は女性と手をつなぎ、堂々車道を歩いている。  その女性は白いワンピースを着て、つばの広い帽子を被っている。  じっとりと汗ばむくらい暑いはずなのに、つないだ手はとても心地いい。  ――特に会話はない。それがなくても同じ方向へ一緒に歩いている。相手が好きな人なのかはわからない。歩いても歩いても黙って一緒に歩んでくれるそんな人だ。  ――写真を見ているように、この光景は頭から離れなかった。忘れたくなかったあの夢を自分は今、見ている。自覚できている。  ――今なら彼女の顔を確認できる。薫はそうっと彼女の足下から目線をあげていく。あのときの感覚が確かなら、その人物は……。  ――。  ――。  彼女の首まで視界に映る。
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