Bパート 後

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「夢録をしてもらいに来た俺が言う資格はないけど、今、君は夢録を……人の夢を見ている場合じゃない。君の夢は他人が見る夢の中にはない。もちろん、俺の夢の中にも。自分の中にあるんだよ。自分の目で見て、手で触らないとわからない。本当の海が見たいなら、今から俺が連れて行ってあげる!」  薫は手を差し出した。 「本当の海……」  紅子の目が変わった。好奇心を抱き、輝いている。 「そうだよ。本当だったら、小学校に通って、友達に囲まれて、勉強して、遊んでなきゃダメなんだよ。外で走り回ったりしてさ。運動会もあるぞ」 「うんどうかいって?」 「みんなで走って誰が一番速いか勝負するんだよ。玉入れとかもあるな。お昼ご飯はお父さんとお母さんと一緒にお弁当を食べるんだ」 「お父さんとお母さん……」 「そう! 志染さんにもいるでしょ」 「いるけど、ぜんぜん会ってない」 「会ってないって……。おうちに帰ってこないの?」  紅子は左右に首を振った。そして、 「研究が忙しいって、お手伝いさんが言ってます。それに私が夢録をしてお金を稼がないといけないから……」 「何で十才の子がそんなことするんだよ」
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