Bパート 後

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「発信器? 盗難防止用のセキュリティか。どこまでこの子を……」  このブレスレットがドアを通ると警報が鳴る仕組みだった。それは紅子の誘拐防止のためだ。薫は紅子をかかえ直し、走り出した。 「ここから出られれば何とかなる。あとで、そいつもはずそう!」  昨夜、通って来た廊下を戻って行く。相変わらずサイレンが鳴っているが、誰かが薫たちのところへやってくることはなかった。隣の部屋にいるというお手伝いさんですら、姿を現さなかった。このサイレンは単なる脅しで、実際には機能していないようだ。  紅子のためのセキュリティでも、何でもないじゃないか。どこまでこの子を適当に扱うつもりなのか……。  紅子は落ちないように薫にしっかりつかまっている。背中のオレンジ色をした蝶の羽が風を受けて揺れている。 「お、お兄さん。風が気持ちいい!」  紅子は照れて言った。普段、部屋の外にもろくに出ない正直な気持ちなんだろうと薫は思った。  それに「お兄さん」か。  妹にするってのも悪くない。ほんの短い時間かもしれないが、そうなるのもいい。 「そうか。でも、海の風はもっと気持ちいいぞ!」
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