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「お兄さんもモノ好きだね。今、せりか島に行きたいなんていう人は誰もいないよ。本島の島民でも行く機会はほとんどないよ」  中年をとうに過ぎ、陽に焼けた真っ黒肌の漁師が小型漁船の舵を取りながら言った。 「さっき、あの島を本島から初めて見た時、呼ばれた気がしたんです。それでどうしても行ってみたいと思って……」  半袖のシャツを肩までめくった白い肌は赤くなっている。大きなリュックサック一つ背負った薫が目を輝かせながら、正面の島を見ていた。本島から船で十五分はかからない距離で、離れ島のせりか島にもうすぐ船は到着する。 「島に呼ばれたって、変わった兄さんだな。せりか島に行っても何もないぜ。いくつか民宿や民家があったが一人を除いて誰も住んじゃいない。そいつを見かけても関わらないでいた方がいい」 「一人?」 「あぁ。お兄さんと同じ高校生だよ。時代の流れで本島ないし、本土へせりか島民は移っていった。でも、あの女の子だけは離島することを拒んで、今でも一人住んどるよ。水も電気も通らなくなって、もう三ヶ月になるな」 「……」
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