Bパート 前

3/9
前へ
/193ページ
次へ
 船は、元々港だった所に接岸した。薫を下ろすと、漁師は湯が沈む前にここに迎えに来てやるからと言って、本島へ戻って行った。船のエンジンが聞こえなくなると、穏やかな波の音と心地よい風の音だけが聞こえてくる。  辺りを見ると廃屋が建ち並んでいる。人が住まなくなるだけで、建物はこんなにもさびれてしまうのかと薫は体感した。  島の円周に沿って続く船着き場の先に、少し高くなった防波堤があった。その上で両足を海に突き出して地べたに座っている女の子が一人いた。  薫はさっき漁師が言っていた人だとすぐにわかった。他に人はいない。背負ったリュックを軽く持ち上げるようにして背負い直した。その女の子の方へ歩いて行く。  すると、その女の子は、薫が近づいてくることに気づき、その場に立ち上がった。白いワンピースに襟首に青いスカーフを巻いていて、飾りのない麦わら帽子を被っている。  島に取り憑かれた一人残る女の子の服装ではないと思う薫。この暑い季節に水や電気のない島の生活には不向きな格好。Tシャツに短パンと行動しやすい格好を想像していた。 「君が、一人で島に残って――」
/193ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4人が本棚に入れています
本棚に追加